血糖値とイヌリンの関係

以前の記事で、血糖値スパイクとそれを抑える方法についてご紹介しました。今回の記事では血糖値スパイクの抑制に役立つ一つの成分についてご紹介します。その成分とは「イヌリン」! イヌリンとはどんな成分なのでしょう?

■イヌリンとは?

イヌリンはキクイモやごぼう、ニンニク、チコリの根などに含まれる水溶性の食物繊維です。食事などで体内に摂りこむことで、いくつかのメリットが期待できます。食後の血糖値のコントロールをはじめとした、生活習慣のサポートとして日常生活に取り入れたい成分です。

■イヌリンのメリット

イヌリンには、主に以下の3つのメリットが期待できます。イヌリンの働きについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 糖の吸収を抑え、食後の血糖値の上昇を穏やかに
  1. ① 水分を吸収するとゲル状に変化する
  2. ② 胃から小腸への食べ物の移動を緩やかにする
  3. ③ 栄養が小腸で吸収されるスピードを緩やかにする
  4. ④ 併せて摂ったグルコースの吸収も抑える
2. 善玉菌のエサとなって腸を整える働き
  1. ① 発酵分解されるとフラクトオリゴ糖に変化。大腸の善玉菌のエサとなる
  2. ② 善玉菌が体の役に立つ、酪酸などの短鎖脂肪酸を生成する
  3. ③ 短鎖脂肪酸が腸内を弱酸性化し、有害細菌の増殖を抑制
  4. ④ 短鎖脂肪酸が大腸粘膜を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を促す
  5. ⑤ 腸内環境が良好な状態に近づいていく

3. コレステロールの吸収を抑制

  1. ① コレステロールは小腸で吸着される
  2. ② 人はイヌリンを分解できないため、イヌリンはそのまま体外に排出される
  3. ③ イヌリンの排出と併せて、コレステロールも一緒に排出される
  4.  

私たちの身体にさまざまなメリットがあるイヌリン。その働きは複数の論文でも確認されています。

血論文からも確認されているイヌリンの効果

先の記事で取り上げたイヌリンは、食後の血糖値対策をはじめとした健康維持をサポートする成分として注目されています。イヌリンと血糖値に関する研究だけでも、検索すると数百件 もの論文が見つかります。ここでは、イヌリンと食後の血糖値の上昇抑制に関する論文の研究レビュー(システマティックレビュー)*の結果についてご紹介します。

*研究レビュー(システマティックレビュー):研究論文を系統的にデータベースから検索・収集し、類似した研究を一定の基準で選択・評価したうえで、科学的な手法を用いて評価すること。

■イヌリンの研究概要

イヌリンの食後の血糖値の上昇を抑える機能について、採択された6報の論文で評価されました。その結果、「イヌリン600mg/日以上を成人が摂取した場合、食後血糖値上昇抑制効果を有する」と評価されました。
検証した論文は下記「文献リスト」をご覧ください。

■ 評価レビュー

イヌリンの効果を確かめるにあたり、イヌリン600mg/日以上を健常成人 (特定保健用食品でいう空腹時血糖値が境界型及び高めの者を含む)が摂取した場合の研究論文6報を評価対象としました。
その結果、イヌリンを摂取することで、食後血糖値の上昇が抑えられたことが確認されました。

なお、境界型等の被験者を含まず健常者を被験者とした試験においても、イヌリン摂取による食後血糖値の上昇を抑制する機能があることが評価されました。

■ 結論

この研究レビューの結果、イヌリン600mg/日以上の摂取は健常成人において食後血糖値上昇抑制の機能を示し、食後の血糖値が気になる方に適した食品であると結論付けられました。

 

いかがでしたか?イヌリンを自分でできる食後の血糖値対策として取り入れてみるのはいいかもしれません。規則正しい生活習慣と適度な運動はもちろん、安全性や科学的裏付けのある機能性成分なども利用して、血糖値を適切に保っていきたいものですね。

●文献リスト

1.  J.J. Rumessen, etal.:Fructans of Jerusalem artichokes:intestinal transport,absorption,fermentation, and influence on blood glucose, insulin,and C-peptide responses in healthy subjects.:Am. J. Clin. Nutr.,57: 675-681 (1990)

2. W. van Dokkum, et al.: Effect of nondigestible oligosaccharides on large-bowel functions, blood lipid concentrations and glucose absorption in young healthy male subjects.Eur. J. Clin. Nutr.,53: 1-7 (1999)

3. T. Wada, et al.: Physicochemical mcharacterization and biological effects of inulin enzymatically synthesized from sucrose.: J. Agric. Food Chem., 53: 1246-1253 (2005)

4. J. Tarini & T.M.S.Welever : The fermentable fibre inulin increases postprandial serum short-chain fatty acids and reduces free-fatty acids and ghrelin in healthy subjects.: Appl. Physiol. Nutr.Metab., 35: 9-16(2010)

5. 名嶋 真智, 他.(日本): 菊芋による食後血糖値上昇抑制効果;健常者に限定した再統計解析:無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験。: 診療と新薬 55: 605-612 (2018)

6. 名嶋 真智, 他.(日本):菊芋の継続摂取が健康な日本人の食後血糖値に及ぼす効果:診療と新薬 57: 493-500 (2020)